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 未分類:0 放置プレイ中:3 オリジナル:7 マリア様がみてる:7 リリカルなのは:5
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白い夢    2008 / 02 / 11 ( Mon )
未完。




 ただひとつ、くだらない夢の話を。








白い夢








 そこは何もかもがしみひとつ無い白紙のようで、奥行きさえも掴ませないその曇りの無さに光源も無いというのに目が眩むような気さえした。



 母に手を引かれ私はそこにいた。
白い半球状の空間の中、然程も無い身の丈でその白い柩を見上げた。
その淵はとても高く、手を伸ばしても届きそうに無い程で母が私を抱き上げたがそれでも尚高く、聳えるそこへ私は手に持ったその花を高く高く投げるしかなかった。
白い白い光沢すらも無い床に浮かんだように置かれた柩の中へ、黄色い花が吸い込まれるように堕ちて行く。思えばあれは菊の花のようだ。眼下の柩の中には沢山の花に埋もれた見知らぬ老婆が身を横たえ静かに静かにそこにおり、人は皆花の数だけ帰った。今しがた捧げられたひとつだけを除いて。
そこに残るは母と私の二人きり。
 音も無く壁に窓が開いた。白い白い壁にぽっかりとその穴はあいていた。
その向こうには燃え盛る炎が見える。柩はその中へ呑み込まれ、直ぐに見えなくなる。壁は又遠近も掴めないまっさらな白へと戻る。
柩は燃えてしまった。



 それは遠い遠い日の夢の話。









 
 何故その話をしたのか、何故その話を思い出したのか今ではもう分からない。
私たちは小さなカフェで紅茶を飲みながらずっと語り合った。
その時の感情を何と呼べば良いのか私には分からない。


紳士は問うた。
幸せはどこにありますか?
ある人は東を指し、ある人は西を指し、ある人は南を指し、ある人は北を指す。

 私は心倣し、高揚していたように思う。
誰もいない戦場で、たった一人同胞を見つけたような気分だ。白い丸テーブルの上で、その喜びを分かち合う。
彼女も同じ気持ちであることはその白い頬に映えるうっすらとした紅潮から何となく分かった。
そうでなくとも、私たちは心が通い合ったかのように感じた。

 紳士は深々と頭を下げると、すうっと一筋の煙のように天高く上り消えていった。
火葬場の、人を焼く煙のよう。
残された者たちは、老紳士を見送ると途切れた会話をまた紡ぎ出した。




2




真っ白い、本当に真っ白い場所にいたんです。母と、手を繋いで立っていました。
目の前には白い柩があって、そこで父が眠っているんです。
私は、悲しい、と父の報せを聞いた時は思ったのですが、そのときはただ父がもう死んでいることをただ見詰めていたんです。
花を持っていました。多分、菊の花だったのだと思いますけど、後付けの記憶なのかその時の記憶なのかはもう分かりません。黄色い花だったというのは、良く覚えているんですけど。
私はその花を柩の中へ投げて、父が白い壁に呑み込まれて、燃えていくのを知りました。




3



 白い椅子に腰掛ける。
そのカフェは不思議な造りをしていた。
大きな企業ビルに挟まれたこじんまりとした瀟洒な店。
少し奥まった路地の真ん中に、まるで通るついでに寄って下さいとでも言わんばかりに鏡のように向き合った二つのドアが口をあけている。
少し高い位置に横一列に窓が並び、外の景色は分からないけれどその窓際の席へ座っていると、まるで見えているかのように身近に人の息衝く音が聞こえる。
そこは、私が最近見つけた穴場だった。
ある朝、常習となってしまった遅刻を免れるため我武者らに走っていたら方角的に近道に丁度良さそうな小路を見つけたのがはじまりだった。
小さな子会社で慢性的な人手不足なこともあり、景気も良くなりつつある今でも経営は苦しい筈だがリストラの憂き目に遭う社員は未だにゼロ。高を括ってはいないが、余りに多いとその記念すべき一人目になりかねない。
このまま行っても遅れるだけだったからと自分に言い訳し、好奇心に背を押されながら賭けに走った。
日頃からそんな小さな博打を打つことが多いものだから、実家の母には賭けるばかりではなく地道に積み上げることも考えなさいと受話器越しに釘を刺されてしまった。
母の言いたいことも分かるから、その時はそれなりに反省してはいたけれど、今は後悔していない。
そんな些細な賭けでこんな場所が見付けられるなら幾らでも賭けようと言うものだ。
その引き換えに上司に怒られるくらいなら安いものだろう。
会社からも近く、私はその日からこの店の常連になった。
高層ビルに囲まれていながら壁に沿って並べられた窓と中央の奥まった高窓から光は常に差し込み、余り暗い印象はない。
調度品も白塗りのものが多く、清潔感があってお洒落だ。
食事は済んだけれど、業務に戻るまでの規定時間はまだたっぷりとある。
紅茶を頼むと、余り喋ってはくれないけれど人の良さそうなオーナーが微笑みだけで頷いた。

「このお店って照明は無いんですか?」
「そうだね、暗くなる頃にはもう閉めてしまうから」
「でも、そんなに窓があるわけでもないのに明るいですね」
「調度品は見ての通り光を反射する白を多く使っているからね。後は、あれかな」
「あの高窓ですか?」
「そう、良く聖堂なんかで用いられている奴でね。頂塔と云うんだ」
「ランタン?」
「頂きの塔、と日本語ではよく書かれているね」
「へぇ、あれがあるだけでこんなに明るくなるものなんですね」
「効率よく光を採り入れてくれるものでね、御陰でこの店は経営できるんだ。実は彼がこの店の主人なんだよ」
「ランタンがですか?」
「そう、だからこの店の名前はLantemというのさ」

 そのとき初めて、この店の名前を知った。建物ばかりに気を取られてしまい、小さな看板にまで目がいかなかったらしい。
そんな何の気無しに聞いた話も随分と前になってしまった。
そのときから、私は心の中で彼を店主ではなくオーナーと呼ぶようになった。意味は大して変わらないけれど、気持ちの問題だと思う。後で知ったことだけれど、頂塔というのは建築用語の一種らしい。彼は、その関係の人だったのかも知れない。けれど、どうしてそんな人がこんな小さな店を運営しているのか私は知らない。
 この店に通い詰めるようになってかなり経つけれど、オーナーは未だに私が声をかけない限り、話しかけては来ない。


 丁寧にいれられた紅茶がそっと目の前のテーブルに置かれた時、涼し気な音を立てて小さなドアベルが店内に響いた。
私以外にこの店のベルを鳴らすのを初めて耳にした。つい椅子の上で身を捻り、背もたれ越しに入り口を見てしまう。するとドアノブに手をかけたままのその人が、少し驚いたらしい表情で細い顎を持ち上げたまま店内を見渡していた。
初めて来たときの自分を思い出し、少しだけ微笑ましい。きっと私もあんな顔をして店内に首を巡らせていたことだろう。
いらっしゃいませ、とオーナーが声を掛けると彼女はこちらに気付き、眺めていた私と目が合った。
 私はこんにちは、と軽く手を振ると彼女は小さく会釈を返した。
それを見届けたオーナーは洗練された動作でカウンターの方へ戻っていく。
彼女はその後ろ姿を見送ると、気がついたようにドアを閉めた。再びベルの音が小さく木霊す。
私は冷めないうちに紅茶を飲もうと思ったけれど、入り口の前に立つ彼女が心許無さ気にしているので小さく手招きをするとほっとした顔で小走りにこちらに来た。
「人がいないから、初めて入った時って逆に緊張するのよね」
 私が前の席を勧めながらそう話しかけてみると、彼女はそうですね、と少しぎこちなく笑ってみせた。
彼女も又、好奇心に押されて入ったひとりのようだ。しかし入ったは良いものの、人気の無さに驚かされてしまったのだろう。
「あの、あなたはよくこちらに?」
「ええ、このお店を見付けてからはしょっちゅう来てますね」
 私が苦笑気味に答えると、彼女は再び店内を見渡してから「素敵なお店ですものね」と答えた。
私は、オーナーを呼び紅茶を一杯頼んだ。目の前に座る彼女は私の目の前の紅茶と見比べて不思議そうな顔をしている。
オーナーが紅茶を彼女の前に置くと躊躇いがちに自分の注文ではないと言った。私は堪えきれずに笑って見せ、「おごりよ」とこちらに押されていたティーカップを受け皿ごと押し返した。
「ここの紅茶を飲んだら、もう来ずにはいられないんですよ」
 そう笑ってみせると、遠慮が口をつこうとしていたらしい彼女が初めて自然に笑ってくれた。

 その日も又白い椅子に腰掛ける。
たまに見掛ける男性も今日は姿を見せない。彼はいつもカウンターの近くの席に腰掛けて珈琲と大きな本を右手に何度か持ち替えながら過ごしている。コートの懐から煙草の端が覗いているが、一度も手を伸ばさない。
オーナーに聞いた話ではここは禁煙にはしていないものの、煙と一緒では味が濁るとかで注文されたものは特別不味いものを渡すのだと、普段見せない少しだけ子供のような笑みを浮かべた。
染み一つない丹念に拭かれたさらさらのテーブルを指先で撫でてみると、オーナーの愛着が伝わってくるような気がした。
ドアベルが鳴り、オーナーがいらっしゃいませと声を掛けるのが聞こえた。不躾だとは思うけれどこの店にどんな客が迷い込むのか気になり、先日のように堂々と見るのも憚られた為入店した足音を頼りにそっと後目に捉えようとするが、逆に躊躇いがちに声をかけられ、その必要も無くなってしまった。
「あら、また来たのね」
 見れば、その先日の女性だった。
人の顔を覚えるのが苦手な私だけれど、条件が限定されている上昨日今日じゃ流石に忘れられないらしい。
「は、はい」
 しきりに恐縮する彼女の様子を見遣りながら、あ、しまった、と思った。気軽に言ってしまったが、これでは来るなと言っているように聞こえるかも知れない。
何とか持ち直してもらおうと先日のように前の席を勧めた。
「何にします?あ、ここのメニュー表はあれね」
 華奢な椅子を引き出し、腰掛けると私が指差した壁のメニュー表へ顔を上げた。
 暫くそれらを見渡した後、彼女が視線を向けるとオーナーがこちらへ歩みより、控えめな声で注文を告げると不思議さを転がすように呟いた。
「……メニュー、少ないんですね。」
 小柄だがスーツをきっちりと着こなしている所為か、標準くらいの背丈はある私より幾分大人びて見えるかもしれない。
壁を背に隅の席で座っている所為か、頂塔の光が照明のように彼女を照らす。
緩やかに巻いている繊細で飴細工のような髪が光で透けるように綺麗に見えたのが目を引き、白い小振りな頬を包んでいるのをついじっと眺めてしまった。
彼女が目を泳がせているのを見付け、そのことに気付く。
「あぁ、ごめんなさい。メニュー表、ね。店の料理というより雰囲気を楽しむって方が強いからじゃない?」
 私がそう云うと、成る程というように感嘆してみせる。
面白いなあと思っていると、オーナーから紅茶が運ばれて来た。
 そして今日も又、白い椅子に腰掛ける。





 



「白い夢を見たんです」
 確か彼女はそう口火を切った。
白い調度品が思い出させたのだろうか、彼女は白いテーブルを見詰めながら話し出した。
「昔、父が死んだ頃。私、お葬式に行けなかったんです。
後で知ったことですけど、父は私と母以外にも奥さんと子供がいて、母とは正式に入籍していなかったんですね。
よく、家に来てくれていたからその頃私は仕事で帰って来れないんだなと勝手に納得しちゃってて。聞いたことがなかったんです。学校の友達に、出張で中々お父さんが帰ってこない子がいて、ああ同じなんだなって。実際には全然違ったんですけど。
父は週に2、3回家に来て、“お父さん”をして夕ご飯を食べて………また出掛けて。
物心ついた頃には、それが当たり前だったからなんの疑問も持っていなかったんです。
それでもお葬式には行けたのですが、母が行きたくないと言って。
同じ街と聞いていましたけど父の家も、お葬式の場所も知りませんでした。
その頃はもう中学生でしたから、行こうと思えばひとりでも行けたんです。
喪服が無くても制服のままで良かったですから。でも、母の言葉と場所が分からないだけで、諦めていたんです。
何も、やろうともしないで。
そんな時です、その夢を見たのは」




5


 
 
 それから、彼女はよくこの店へ足を運ぶようになった。私がいる時にくることもあれば、来ないこともあった。
けれど、私はさして気にも留めなかったし、だからといって拒むことも無かった。
向かい合って座れば他愛の無い話を飽きることなく続けた。
子どもの頃の話、新しく出た化粧品の話、紅茶の話珈琲の話、近くの美味しいお店の話。
会社の休み時間を目一杯に遣っても話題は尽きることが無かった。まだまだ話足り無くて、このまま会社に戻らないで喋っていようかと思ったこともあった。話し始めると、そこで終わってしまうのが惜しい気がして仕方が無かった。
そんな折りに、ふと彼女は思いついたかのようにそんな話を口にした。
白い白い夢の話。
不意に目が眩むような気がした。目の前で微笑んでいる彼女と白い壁。既視感が後頭部をそっと撫で上げる。





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