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紫煙    2008 / 02 / 11 ( Mon )
信じたいもの信じられなかったもの。未完。
 或る女がいた。



 煙草を銜え火を探す。
未だ水気を含まないフィルターの感触を唇に感じつつも当の探し物が殊の外見付からず込み上げるべたべたとした粘性の熱に眉間が深い溝を作る。
徐々に脳を犯すそれは膨張するような、或るいは締め付けるような感覚を齎し懐を探る手も次第に余裕を無くしてゆく。
漸く上着のポケットに触れる物を見付け何時の間にか浮き出した冷や汗が止まるのを感じた。しかし改めて掴むとその感触は自分の知るそれとは程遠く、色濃い疲労感と落胆に体の重みが随分と増した。
惰性的に気怠く取り出したそれは小さなマッチで、何時の間に入っていたのか、頭の隅に消化しきれない物を感じた。
首を傾げつつ、何かのロゴが描かれたその匣をあける。そこには当たり前のように華奢な木の柄が行儀よく並んでいる。
心なし慎重にその中からひとつ取り出し、擦ろうと試みるも乾いた音を後に半ばで折れてしまう。熱を孕む苛立ちが又首をもたげ、腹立たしげにマッチを水の中へと放り、再度取り出し同様に擦るがそれも先刻と同じ末路を辿る。
 渋面に染まる自分の顔を水溜まり越しに自覚しつつ、それを止める事はできなかった。
 濡れた雨音の中、マッチを手折る音が響く。滑稽なまでにそれは小気味好い。
水溜まりには首を折られたマッチが幾本も漂い、地表を叩く雨粒に僅かに揺れる。それを後目に最後のマッチを取り出した。
このまま折ってしまおうかと自暴自棄に思いながら、それを擦ると空気の燃える音を紡ぎ火を成した。
突然の事に、俄に驚き暫し眼前に魅入った。漸くそれを思い出したのは火も根元に差し掛かった頃で、指先の熱に慌てて煙草に火を寄せると先端がちりちりと焼け、吸うと火がひたりと吸い寄せられる。添えた掌に赤々とした光が映り、曇天の中その火は幾らか眩しく映った。
紫煙を口の端から延ばしつつ、爪を焦がさんとする火を軽く振ると呆気ない程に簡単に消えた。細いライトグレーの煙を放物線に沿って描きながらそのマッチは仲間の後を追うように水溜まりの中へと消えて行く。
 立ち上る煙が降り注ぐ水の糸へ絡み付く。断続的なアスファルトと雨露の逢瀬と接吻の水音に閉塞的な狭い空間に閉じ込められたような感覚に陥り、それを自覚した瞬間辟易とした。銜えた煙草は瞬く間にその身を縮めた。
紫煙が緩やかに蛇行する。色白の女の腰のようだ。白皙の女を思い出す。
紅蓮の浸食がフィルターに差し掛かろうという頃に、思い出したかのように緩慢に煙草の箱を取り出した。
鼻先に熱を感じる程短くなるまで吸ってから、僅かにひしゃげた二本目にその火を移す。
煙草の味を覚えた頃からフィルターの味が好きだった。焦げた只苦いだけの味が舌に残る。
何事もそうだ。終わりを迎えようとしている物は全て同じ匂いをしている。
有終の美とは違う、只堕ちてゆくだけの匂い。
そこに感じる恐怖も、その下の安寧を知れば快楽にもなり得る事を知ったのは何時の頃だろうか。
些か自虐的だろうが自傷的だろうが、墜落の浮遊感は堪らなく甘美だ。その瞬間だけ、世の中の全ての事象から外れた場所にいける。
落下しているからには万有引力に引かれているのだろうが、それすらも快楽に呑まれ忘却の彼方へと追いやられる。
立ち上る紫煙とは裏腹に、いつまでも堕ち続ける。


「あなたはわたしになにもしてはくれない」

 与え合う愛の陳腐さと高潔さはどんな言葉よりも伝達能力の高い子々孫々と備わる普遍の真理であり、一方的な愛など長くは続かないのが世の常ではある。

「わたしはなにものぞまない」

 慈愛に満ちた偽善的な言葉でいくら取り繕おうが、いつかは綻びる。

「わたしはかれらとはちがう」

 その絶対的な宿命からは逃れられない。
 
「うそのあいをください。ほんとうのあいはいりません」

 空へ放った紙飛行機が、いつかは落下するように。

「あなたはわたしになにもしてはくれない」

 その身を空へ投じようが、その体が羽ばたく事などありもしない。



 ああ、もしもし。
警察関係の物ですが、×××さんはご在宅で?
ああ、そうですか。
つかぬ事を御窺いしますが、×××さんとは日頃から親しくなさっていたそうで。
ええ、宜しければお話を・・・はい。親族の方もいらっしゃらないようで顔の確認もしていただかないといけませんし。いえ、電話口ではちょっと・・・はあ。
ええと、本日未明、詳しい時間は只今調査中です、追々連絡するかと思いますが、まあその頃に×××さんがどうも投身を計られたらしくて。
はい。余程思い悩んでいたのでしょう、かなりの勢いで窓から飛び出したようです。それこそ、飛ぶんじゃないかってくらいに。
目撃者もいるので、自殺は確定ですが教唆の可能性もあるので。
っと、すみません。少々失礼。
・・・・・・
ああ、どうやら先程病院で死亡が確認されたようです。一応延命処置は取られたようですが、これは即死ですね。
現場の出血量からいっても、これは助からないでしょう。
ん?どうなさいました?×××さん?・・・あ、そうですか。
まあ、御辛い事かと思いますが何分こちらも仕事な物で。
あなたに疑いがかかる事はないと思いますから、はい。では後ほど。

 
 足下の排水溝から、雨の匂いに混ざり腐臭が立ち上る。雨水が吸い込まれるその暗い穴を見遣るが何があるのかなど分かる筈も無く、言い知れぬ暗さを只そこに湛えている。
腐臭が何時の間にか生臭さにかわりそれは赤黒い液体を連想させ、思わず吐き気を催す。
舌の上に広がる酸味を紫煙に溶かし、何事も無いような振りをした。幼稚な事だと分かってはいてもせずにはいられない。
断続的な雨音は絶えず急き立てるようで鬱陶しい。足下を見れば流れ着いたマッチが靴の先きに引っかかっている。その傍らの水に映り込む顔に嫌悪感を覚えた。
あれからもう随分と髭を剃っていない。無精髭が痩けた頬に張り付いている。顔が青白いのは、曇天の所為だけではないだろう。
落窪んだ目に暗い影を落としている。







 雨が窓を強く叩く。
或る女はそれを背に髪を振り乱し存在しているのかいないのかを疑うかのように彫像と成り果てた男に繋がらない言葉を喚き散らす。
男はその髪が女の自慢である事を知っていた。
素足の足下には髪が絡み付くように散っている。

あなたは私をみない

女は指に食い込む程強く持った鋏を振るう。髪が又一房堕ちた。


あなたが見ていたのはこれでしょ?
いつもいつもいつも、あなたは私なんか抱いていない
あなたは私の髪を犯してるだけ
 
興味ないんでしょ?私なんか
他所の女の変わりにしてんでしょ
何で私がこんな辛い思いしなくちゃいけないのよ
何であの時声をかけたのよ
何でこんな奴好きになったのよ
馬鹿げてるわ


 女は指に食い込む程強く持った鋏を振るう。
髪が堕ち、露になる青白い首筋に赤い珠が堕ちる。次々と、雨の滴りのように。カーペットに広がる髪の上には赤い水溜まり。
余りの赤さに男には黒ずんで見えた。

 

「かみさまって存在するのかしら?
少なくとも、こうして祀られているのだから言葉の上や概念上では存在するのよね。
でもそれって、思えば変な話よね。
存在しない物を作り上げてあたかも存在するかのようにする何て。ファンタジーフィクションだわ。
何か共通のメディアを介して存在しない物を共通の認識として作り上げるのは、小説も映画も、マスコミも同じ。
でもかみさまという存在は何処にでもいるの。人の深層心理、根源という方がしっくり来るわね。
そういう基本的な核みたいな物って国境も宗教も関係ないのかしら。
皆が知っているかみさまじゃなくても、皆だれか、なにかを信じて崇拝してる。それは信念だったり、象徴であったり、人であったり。
三大欲求はたとえ世界の裏側でも同じように人に備わっているわ。
何事にも例外はあるのだから中にはそれを必要としない人もいるのかもしれないけれど。
そういえば、眠らない男の話をしっている?彼にはその睡眠の欲求がないのよ。眠りを必要としないの。
代わりに、食欲が強く沢山のものを食べないといけないらしかったけれど。

少なくとも提唱された人間の欲についての認識は世に定着しているからにはそれ相応の説得力があるという事ね。
誰が、人間は全て同一の物から出来ていると思ったのかしら。
見た目だけではない。見ている物も、感じている物も、基本的な所では同じだと誰が初めて考えたのかしら。
万国共通に林檎は赤くて甘酸っぱい物だけれど、私が見ている赤が、貴方が見ている赤と同一とは限らないのにね。
貴方の綺麗なダークグレイと青の混ざった目に、赤が紅として映ってもおかしくは無いわ。
例えば、私が見ているのは私が赤と認識しているのは貴方にとって青なのかもしれない。
貴方は青と視認しながらも、林檎を指しては赤といい、私も当然赤と言う。
こうして同じ物を指している以上それは赤以外の何者でもないのに、見えている物は全く違う。
今でこそ医学、科学の知識で概ね私たちが見る物は同じ色だと証明されているけれど、全てがそうだとは限らない。
青と赤程の違いはなくても良いわ。私が、概念的に苦しいと感じている物が実は悲しいという事なのかもしれない。微妙な差異は決定的で、場合によっては、精神的な物でも直接肉体的な異常だと思うのかもしれない。
心身症のように精神が肉体に影響を及ぼす事はあっても、全く別物の物として扱われるかもしれない。
愛しさと哀しさは同じなのかもしれないし、愛と恋は全く違うのかもしれない。
そんなこと、誰にも分からないのにね。
ね、そう考えると確かな物なんて何も無いじゃない。
いつ、どこで、この幸せがが崩れるか知れないわ。
今この瞬間、彼処の神父がマシンガンを振り回しても不思議はないわ。
だって、彼は昔大量殺人犯でその罪から逃れる為に聖職者に成ったのかもしれない。
私たちが吸うこの空気だって。原核生物には毒でしかなかったのに、私たちは今これがないと逆に死んでしまう。
あなただって、何時私の首を絞め殺すかわからない。可能性は低くても、決して零ではない。
そんな顔をしないで。仕方がない事なのよ。
だから、かみさま何て偶像が出来上がったのかしら。
確かな物が欲しくて。
依存したかったのでしょうね。
不確かな世界から万能の神に」  

 


 その女に会ったのは或る教会の事。
何処の教会でもそうであるように、この教会でも代わり映え無く神父が朝の朝礼を執り行っていた。
ステンドグラスは上りかけの陽に煌めき、静謐な空気は澄み渡り風のない水面のように張りつめていた。
夜通し酒瓶を傾けていた俺は、酔いを冷まそうと柄にも無く教会へと脚を運んだ。
酒と煙草の匂いを纏わせる俺に傍を通った老人は迷惑そうに顔をしかめる。硝煙の匂いがしないのなら構わない。
そんな奴らを避け最後尾の長椅子に腰掛けると、そこには先客がいた。
長いブロンドの女だった。


信仰心も無い癖に熱心に通い詰めるこの女に、世界はどう映っていたのだろうか。





あのマッチはパンドラの匣だったのだろうか。
最後に残ったマッチはさしずめ希望か。


一体何の希望なんだ?
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