FC2ブログ





2018
11 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 01

 未分類:0 放置プレイ中:3 オリジナル:7 マリア様がみてる:7 リリカルなのは:5
スポンサーサイト    -- / -- / -- ( -- )
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
スポンサー広告
    2008 / 02 / 11 ( Mon )
ちょっとしたお題に沿って書きました。




 白い嘘というものがある。
くだらない嘘でも欺く嘘でもなく白く、ただ白いだけの嘘。
それを聞いた時、只の虚言に白さも何もあるのかと思った。
顔に出たのだろう。
彼女は、僕を見ながら短い髪を揺らして笑った。


 20年という歳月の長さを実感したのは同窓会の顔触れの所為もあるのだろう。
肩を叩き笑い合っていると学生に戻ったような気分になる。けれども話し込むうちにどうしようも無い年月の亀裂を感じるし、あの頃は遠い未来だと思っていた子供の事、仕事の事などが話題にあがる度に夢から覚めるような気分になる。
自分ももう若くは無い事を自覚させられ、幾分侘しくなった。
僕は、今、所帯が無い。


 彼女が来たのは酒の酌も速やかに、同窓会の皮を被った酒盛りもいよいよ佳境を迎えようという頃だった。
幾分髪を乱して、座敷へ入ってきたときは一瞬の既視感がよぎった。
「間に合った?」
 僅かに息を切らして言った彼女に、気付いた赤ら顔の同級生達が「良いところに来た」と応じる。
変わってないなあと、扉付近にいた担任だった老教師がそこに座らせ、出席を取るかと酒の雫を飛ばしながら硝子のコップを掲げ持つ。
厳格で有名だった先生だが、やはりかつての教え子に会ったのは嬉しいらしく酔いも手伝い、赤みが差した顔には笑みが絶えない。記憶よりも大分増えた皺に、又少し、寂しくなる。
感傷に浸る自分に苦笑しつつ、酒を傾けていると隣の友人に絡まれ、それからの記憶は暫し飛ぶ事になる。



 くだらない夢とか希望とか。今思えばあの頃はとても輝いていたように思える。
往々にして青春時代とはそう言うものだが、僕もその例に漏れなかったらしい。それなりに充実している筈の今も、何処か色褪せ見窄らしく見えてくる。
今にして思えば恥ずかしい葛藤も、あの時はリアルでしかなかった。
毎朝教室へ始業チャイムと同時に駆け込むクラスメイトに関心を抱くようになったのは何時の頃だろうか。


   
   *




 妻と会ったのは何の事は無い、会社のオフィスだった。
何度か話すうちに気が合い、どちらからともなく交際をはじめ、やがて指環とともにキスを交わした。妻の辞表を一緒に届け出た時、上司からはオフィスの花を摘まれてしまったと冗談まじりに祝福され、交際はとうにオフィス中の人間の口に回っていたらしい、周りの同僚たちには別段驚かれる事も無かった。


 髪が印象的な女だった。
薄い色の髪で、染めているのかとも思ったのだが本人は地毛なのだと言っていた。
猫っ毛なのでよく彼女のくつろいでいたソファには切れ易い細い細い髪がついていた。
基本的に掃除はマメな方だったので帰る頃にはその量は大して気になる程もなかった。
寿退社してからは専業主婦を務めていた妻は、僕の為に控えめに見ても上手とは言えない料理を勉強し、毎日工夫を凝らした料理を振る舞った。巧い下手はともかく、バリエーションは豊富で退屈せず妻との話も弾んだ。


 その日は朝から雨音の絶えない日だった。
窓際の席だった僕は、マジックガラス越しに窓を打つその音を聞いていた。
その音は何故だか何かに急き立てられるような妙な胸騒ぎ引き起こし、僕は苛立ちを覚え仕事に集中できずにいた。
 髪を掻きむしりながら無性に煙草が吸いたくなった。
妻が出来てからは彼女の意向もあり、ずっと触れていなかったが、ここにきて禁断症状が出たらしい。向かいの席に座る煙草を吹かす鰓ばった顔立ちの同僚が恨めしく思えた。いや、そんなものは錯覚だったのかもしれない。
 耳を裂くように鳴った音に反応するまでに暫く掛かった。
少し後で、漸く妻とお揃いの携帯を買った事を思い出した。
最近になって携帯電話が注目を浴びてきたのを切っ掛けに妻と買い揃えたのだ。いつでも話せるようにと。最初は一昔前のポケベルの様なものだと思っていたのだが、これが中々便利で、テレビの中では評論家が「これからは情報社会だ。携帯電話やパソコンが重要な位置を占めるだろう」と宣っていたのも頷けるように思えた。この分だとそれもあながち間違ってはいないらしい。
 漸くそれを手に取り幾らか慣れない手つきで通話ボタンを押すと、もしもしと電話口へ答えた。
その時初めて、喉がからからに乾いている事に気付いた。相手が聞き取れたのか不安に成る程、喉から零れでた自分の声は掠れていた。



 一通りの雑事を終えると、やる事が無くなってしまった。
ずっと頭を下げてばかりいたので殊の外腰が痛む。しかしぼうとした頭ではそれすらも遠い他人事のようだった。
 兎も角と顔を洗いに洗面所へいくと、見慣れない顔が見返していた。
それが鏡に映った自分の顔だと気付くのに暫く掛かった。目は堕ち窪み、血色の良かった頬は無精髭が目立ち、痩けている。遅れて、自分が未だ喪服を着たままでいる事に気付いた。
洗面台の淵に手をかけると、一筋涙が伝った。


 
 あの日、午後から晴れた空に妻は洗濯物を干そうと思ったらしい。
そして、雨で濡れたテラスへ出ると部屋に干していた衣類の数々をこぞって外へと持ち出した。そして誤って脚を滑らした。

 
 妻の訃報はオフィス中に伝わった。元々此処の社員だった事もあり、悼む言葉も幾らかの本音を含んでいるようだった。
式の最中、息子の事のように僕らを祝した上司はかなり気を落とした様子で、僕の姿を認めると空元気のように慰めの言葉を送った。僕は曖昧に微笑む事しか出来なかった。
部屋は大した高さは無く、運が良ければ骨折ですんだのかもしれない。
だが、その運は妻、或は僕には無かったようだ。妻はこうして柩の中へおさめられている。
首が死化粧では隠しきれない歪み方をしていたが、その顔は不思議な程綺麗だった。彼女の陽に透けるような髪が綺麗で、愛しさが込み上げた。
 彼女より長く生きるようにと、哀しい思いをさせないようにとやめた煙草。
これでは、何の意味も無い。


 あれから数年経ち、僕は漸く顔を上げる事が出来た。
同窓会の招集が掛かったのは、そんな折にだった。僕は、昔の仲間たちの顔が無性に恋しくなり、それに出席する事にした。


 会場は学校の近くの居酒屋で、今回の主催である委員長である彼が兼ねてから此処にしようと決めていたらしい。
麗らかな春の長閑な午後で、窓からは学校に植えられた満開の桜が見えた。


   *


 「私、低血圧で朝起きられないんだ。だからいつも急がなくちゃいけないんだけど」
 彼女は、机に腰掛けながら足を揺らして言った。
僕は、肩を竦めてみせる。
「なら、それを少し早くする事くらいできるだろ。少し早く寝るとかさ」
 その言葉に彼女は困ったように黒板を見た。
教室には誰もいない。
「じゃあさ、毎朝起きれるように、迎えにきてよ」
 そう言って彼女は、ぎこちなく、照れたように笑った。
何が「じゃあさ」なのか分からず、僕は口ごもるように頷いた。





  
 何時の間にかくらくなった空を背景に、桜が道路の向かいにある建物の光に照らされ淡く浮き上がっていた。



 
 夢の話をしよう。
彼女はそういった。

スポンサーサイト
放置プレイ中 | Comment:0
<<告白 | Home | 冥土さん。>>
Comment
コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL
→http://cynicismsicinyc.blog5.fc2.com/tb.php/12-fe1f2add
 Home 



上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。